* * *

 風呂上がりに縁側に腰を下ろして、麦茶で喉を潤しながら夜風にあたっている美海の隣にそっと圭介が腰を下ろした。

「あ、圭介くん、腕、大丈夫でしたか?」
「うん。まぁ…痛いけど。」
「そう…ですよね。」

 頬の傷は擦り傷だろうが、痛そうに見える。やや深い。美海はそっとその傷に触れた。

「…な、なに…?」
「え、あの…痛そうだなって。傷、初めて見たので。」
「あ…うん。」

 美海はゆっくりと伸ばした手を引っ込めた。夜風が二人の間を通り過ぎる。

「目、ちょっと腫れてる?」
「え…?」
「たくさん…泣いた?」
「…もう、大丈夫です。」
「なら、いいんだけど。」

 またしても落ちる沈黙。話すことは決まっているのに、いざ伝えようとすると心拍数が上がって息苦しくなる。

「…あんまりここにいると身体冷えるよ。夏とはいえど夜だし。そろそろ部屋に…。」
「あの…圭介くん。」
「なに?」

 顔が上げられない。しかし、圭介は急かすわけでもなく美海の言葉を待っていてくれる。そのことに勇気づけられて、美海はゆっくり顔を上げた。

「…圭介くん。」
「うん。」
「…私…あの…ずっと…言わなくちゃって…思ってたことがあって…。」
「…うん。」

 圭介が美海の方に身体を向けた。小春が言っていた言葉を思い出す。

『圭ちゃんはどんな話でも聞いてくれるイイ男だよ。』

 圭介にはその気があるということが、きちんと美海の方にも伝わってくる。

「…ここでちょっと待ってて。すぐ戻る。」
「え…?」

 すっと立ち上がって、圭介は自室に行ってしまった。そして1分も経たないうちに戻ってきて、美海の肩にジャージの上着を掛けてくれた。

「すぐ取り出せるところにこれしかなかった。ちょっと大きいけど使って。」
「…ありがとう、ございます。」

 ジャージから香る圭介の匂いに、つい嬉しくなって笑みが零れる。

「え、なにかおかしい?」
「いえ…あの、嬉しいなって。」
「え?」
「…嬉しい、です。圭介くんが…優しくしてくれたり、今…元気だったり、あと…ちゃんと話を聞こうとしてくれることが…。とても。」

 何とか目を見て言い切ることができた。ただ、本当に伝えなくてはならないことはこれではない。