上野駅に到着した。ここで乗り換えになる。

「あっ、私、持てます!」

 電車の上の棚に置かれたボストンバックを圭介は返してくれない。

「持てます~!圭介くん!」
「誰も持てないなんて言ってない。」
「返してください~!」
「それはだめ。」
「まだ疲れてません!」
「そう見えなかった。黙って持ってもらってください。わかった?」
「…持てるのに…。」

 少しふて腐れた美海を見て、圭介は口元を緩めた。それに気付いて美海は顔を上げた。

「…なんで、笑ってるんですか?おかしい顔してますか、私…。」
「ごめん、そんなにふて腐れなくても。」
「…だって、持てるんです。」
「だから、そこを疑ってはいないって。ただ、持ちたいだけ。」
「…どうして、ですか?」
「…そこ、聞かないでほしい。」
「なんでですか?」
「…純粋な好奇心って時々罪。」
「罪!?」

 はぁと深いため息をついて、圭介は口を開いた。

「かっこつけたいだけ。俺も男だから。」
「っ…。」

 そんな風に返されて、どう返答したら良いかわからなくなったのは美海の方だった。人混みの熱と別の熱で顔が熱い。

「まだなんでって言う?」
「…言い…ません。」
「よし。じゃあ…。」
「あ、まだ時間ありますよね。お土産、選びたいです。本当はもっと前にちゃんと選ぶべきだったんですけど…。」
「え、実家に?要らないよ?美海が来てくれるのが土産みたいなものだし。」
「そ、そんなはずはないです!選びたいんです。付き合って…くれますか?」

 こう問われて弱くなるのは圭介の方だった。頷く以外に何もできない。

「…あ、お土産は絶対私が持ちますからね!」
「…わかった。」

 何か持ちたいなんて、小さい子のおつかいみたいだと思って込み上げてきた笑いを、圭介は必死に飲み込んだ。