急に身体の奥がカッと熱くなって、視線を下に落とす。
ずるい。
半分抱きしめられているような格好で、背伸びしたらキスできそうな距離で、全然見せてくれない笑顔を見せてもらえて、ドキドキせずにはいられないよ。
『壁ドンされたら女子はやばい』
誰が言ったのか分からないけど、本当にその通りだと思う。
今も心臓は痛いくらい鳴っている。
桜田くんに聴こえちゃうんじゃないのかな。
落ちたカバンを見ながら『落ち着け落ち着け』と言い聞かせていると、空いていた桜田くんの左手が動いた。
男の子っぽい指に顎をつままれて、私はくいっと上を向かされる。
桜田くんと目が合った。
もう笑っていなくて、でも眠そうになんかしていなくて、きりりとした表情になっていた。
「このまま、キスしてもいい?……千晃」
ビビッと、身体に電流が流れたような気がした。
桜田くんに初めて、下の名前で呼ばれた。
きれいなバリトンの声で、名前を呼んでくれた。
またドキドキしてくる、嬉しい気持ちが広がっていく。
「……いいよ、圭(けい)」
答えると、桜田くんは微かに笑った。
それからほんの少しだけ背をかがめて、ゆっくり顔を近づけた。


