「そういえば」
私が声を出すと、桜田くんが少し首を傾げてこっちを向いた。
「ギリシャ神話ではね、自分の狩の腕に自信を持っていたオリオンは『神でも自分を殺せるものはいない』と自慢してヘラを怒らせてしまうの。
そして、ヘラによって放たれた小さなサソリに刺されて死んでしまったんだって。
だからさそり座が東の空に昇ると、オリオン座は逃げるように西の空に沈むんだって」
「そうなんだ」
「日本の神話だとね、あの3つ並んだ星を住吉三神が住む黄金三星って呼ぶんだよ」
「こがね、みつぼし……」
私の言葉を繰り返して、桜田くんはオリオン座のベルトをぼんやり見た。
私も一緒に見上げているから、たまにお互いの距離がゼロセンチになって腕がこつんとぶつかる。
彼氏彼女の関係になったばかりは、ぶつかるたびにお互いに謝ったけど、今は申し訳なさよりも安心感が広がる。
友達みんなが言う彼氏彼女のイメージと、私と桜田くんはちょっと違う。
隣に居てくれるだけでいいんだ。
手をつないだり『好き』って言ったりハグしたりキスしたり、そうやってわざわざ確かめ合わなくても大丈夫。
そんなことをしなくても、私は桜田くんが好きだ。
桜田くんも、私のことを好きでいてくれる。
……なんて自分で思うと自惚れているみたいで恥ずかしいけど。
「ねえ、新里さん」
路地を曲がったところで、桜田くんが呟くように私を呼んだ。


