新里さんと桜田くん








指先があっという間に冷たくなってしまうくらい寒い冬の日。


駅前の喫茶店で英語の単語テストの勉強をして、私たちは家に向かっていた。


私と桜田くんは、学区の関係で中学は違ったけど家は近いので、毎日一緒に登下校している。


まだ故郷のメロディーが鳴る時間なのに、もう太陽は沈んでいて暗かった。


街灯がなければ、道の細かいところがはっきり見えない。



「『気晴らし』は?」


「pastime」


「正解。じゃあ最後、『機会、好機』は?」


「……えっと、opportunity、だっけ?」


「あたり。これで明日のテストは大丈夫だね」


「うん」



桜田くんは小さくうなずいて、白猫のシルエットが入ったネックウォーマーを口元まで引っ張りあげる。


もぞもぞ身体を動かして「寒い」とくぐもった声を出した。


聞き取りにくくなっても、きれいだなあと思う。


あたしは単語帳をカバンにしまって、星が光り始めた夜空を見上げた。



「桜田くん、オリオン座だよ」


「え?……ほんとだ」



ちょっと視線を上げただけで、東の空に横たわるオリオン座にすぐに気付いた。


生まれて初めてオリオン座を見つけたときは、想像以上に大きくて力強く感じて驚いた。


桜田くんはどう感じたんだろう。


白い光がぽつぽつ並んでいてもここは薄暗くて、桜田くんの横顔はよく見えなかった。