私の恋人は無口だ。



会話のほとんどは首のジェスチャーか指さし、「ん」という短い言葉で済ませる。


とっつきにくい男の子だって思われている。


でもそれは人の中にいるときだけで、私と2人きりのときは、たくさんじゃないけど、きれいなバリトンの声で話してくれる。


そして時々、唐突に私に質問するんだ、



「ねえ新里(にいざと)さん、パンケーキとホットケーキって何が違うの?」



と、こんな風に。


スマホで調べればあっという間に分かることを聞いてくるのは、本当に知りたいからというわけじゃない。


一緒になんでだろうね、と考えながら言葉を交わすのが楽しいから質問してくれるのだ。


朝が弱くて1時間目はいつも眠そうにしていて、国語は得意だけど数学と理科は嫌い、特に物理と化学は彼にとっては地獄。


よく本を読んでいて、お昼ご飯はたいていメロンパンやクリームパン、ノラ猫を見かけると手をねこじゃらしみたいにして遊ぶ。


袖の長いパーカーをだぶっと着るのがよく似合って、オムライスが大好きで、遊園地や水族館がお気に入りで、スクリーン以外が暗くて音が大きい映画館は苦手。


お化け屋敷も入れなくて、コーヒーは砂糖とミルクがなきゃ飲めなくて、猫舌で、辛い料理は食べられない、カレーは必ず甘口。


人前だと無口なのは、おしゃべりがうまくできなくて、変なことを言ってしまわないようにしているから。


そのひとつひとつがかわいくて、私は桜田(さくらだ)くんのことが好きになった。


学校以外のことはお付き合いをしていく中で知っていったけど、やっぱりかわいくてますます好きになった。