『へるぷ』






シンプルなデザインの時計を見ると、午前2時を回っていた。


明日中に仕上げないといけないレポートもあるし、バイトも入っている。


そろそろ帰らないと。



「じゃあ、あたし帰るね」


「あ、送るよ」


「いいよ、泣き顔の男連れてたら周りから変な目で見られちゃう」


「変質者か俺は」



晃汰が心外だという表情になる。


やっと通常運転に戻れたようだ、任務完了である。



「じゃあ、またね」


「ああ、またな」



なるべく晃汰の顔を見ないようにして、あたしは外に出た。


ケーキのごみをつめこんだビニール袋ががさがさ鳴る。


名残惜しくなって、鍵をかける音を聞くまでドアの前から動けなかった。


晃汰が鍵をかけた瞬間、また終わったんだなと思った。



あたしは、晃汰に好きな人ができなければ、一緒にいることができない恋愛相談室。


晃汰の恋が終われば、新しい恋が始まるまで出番はない。


だからいつも、大きな後悔が押し寄せてくる。




ほら、ドアから少し離れたところで、もう足が止まってしまっている。


エレベーターに乗り込めない、ここから離れたくない。


もっと晃汰のそばにいたい。


胸が裂かれそうなくらい痛い。


どうして伝えなかったんだろう、そんな気持ちがこみ上げる。


ああ、やっぱりあのドラマみたいだ。


あのドラマのせいだ。


家以外の場所でこんなに胸が痛んだこと、今までない。



ドラマみたいに、うまくいきっこない。