『へるぷ』






「……水野さん、俺のアプローチ、気にもかけてくれてなかったんだな……だって」


「他に好きな人がいたから、でしょ。さっきも聞いた。


高校時代からずっと好きなら勝ち目ないわよ」


「だよねえ……」


「それに、ライバルの先輩だって振られたから、まだ救われた方じゃない?」


「……そっか」


あたしは、水野さんのことをよく知らない。


容姿は写真だけ、普段の行動とかは晃汰の話だけだ。


今まで晃汰が好きになった人たちも、あたしがあまり関わったことのない人ばかりだった。


だから、どう励ましていいのかよく分からない。


とりあえず晃汰の愚痴を聞いて、気が済むまでケーキを食べさせて、同じことを言ってしょげ始めたらループを止めた。


そんなんじゃいつまで経っても切り替えられないし、なにより鬱陶しいからだ。


同時に腹が立つ。


晃汰じゃなくて、晃汰が告白した女の子が。


好きって想われているのに振るなんて。


あたしなんて、想われたくても想ってもらえないのに……。



「俺、もう一生彼女できないかも」



また始まった。


晃汰のネガティブモード。


前もその前もそのまた前も、失恋したときにいつも聞いた言葉だ。



「そう言って、この間彼女できてたじゃん。落ち込みすぎだよ」


「……この間って1年の夏の話だろ。


それから水野さん含めて2人にコクったけど玉砕された」


「その成功する前は4人に振られてた、大丈夫よ」


ネガティブになると、晃汰はこんなことばっかり繰り返す。


ぶった切ると逆効果なので、あたしはフォローを入れ続けた。



「……悪いな、海咲」



何度か『彼女できない』と言ってから、ふいに晃汰がつぶやくように言った。