その瞬間、着信音が響いた。
すっかり映画館にいる気分だったあたしは、小さく悲鳴を上げて、危うくソファから落ちそうになった。
画面を見ると、晃汰からLINEの通知が届いていた。
《へるふ》
……へるふ?
あいつには珍しい打ち間違いだ。
〈どうしたの?〉
《傷心なう》
《ふられましたー》
危うく落としそうになったスマホを持ち直す。
振られた……つまり、水野さんにお断りされたってことだよね?
えっと、何て送ればいいんだろう。
OKもらえたときの報告なら簡単だ、痛む気持ちを押えて「おめでとう」って言って、しばらくのろけ話に付き合えばいい。
でも、振られたときは本当に困る。
悩んで書いては消し、書いては消しを繰り返して、あたしは顔文字に頼ることにした。
〈(´;ω;`)\(´・ω・` )〉
……うん、顔文字って便利。インターネット社会ばんざい。
いや、そんなことはどうでもいいんだ。
あたしはテレビを消して、カバンに必要最低限の荷物を放り込んだ。
通知音が鳴る。
《今からやけ食いします》
やっぱり。
初めて振られたときから変わっていない。
二十歳になっても、お酒に頼らないのが晃汰らしい。
着替えないでいて正解だ。
〈家でぼっち?〉
《うむ》
〈行こっか?〉
《お願いします(つд⊂)》
慰めるのも相談役の仕事だ。
それに明日はお休みだし、面倒だけど付き合ってあげよう。
パンプスを履きながら、さっきのドラマの展開にちょっと似ているなとふいに思った。
あの主人公は、気持ちを伝えられたのかな。
それはきちんと受け取ってもらえたのかな。
きっとドラマだから、ハッピーエンドなんだろうけど。
――あたしは?
ドアノブに手をかけて身体を止めた。
頭の中でもう一人の自分が問いかけてきている。
あたしは、このままでいいの?
晃汰に気持ちを伝えないままでいいの?
考えている間に、また通知音が聞こえた。
《コーヒー飲みたいです》
という文章と、コーヒーを飲んでいる熊のスタンプが届いた。
スタンプを押せるってことは、まだ余裕あるんだな。
『了解』としゃべっている兎のスタンプで返信して、あたしは結論を後回しにして外に出た。


