資料室から戻ってくると、リエちゃんが声をかけてきた。
「華ちゃん、さっき松河先生が探してたよ。で、机にメモ置いて行くって」
「あ……そう。ありがとう」
「なんかパンフがどうだとかって言ってた。あたしメモ見てないけど」
「うん。ありがと」
銀行に行ってくるねーと言い残し、リエちゃんは事務員室を出て行った。
上司は真剣な顔をして電話をしている。他の事務員は自分のパソコンにかじりついていた。あたしは、それを確認すると、自分のデスクへ向かう。パソコンに、付箋が貼ってあった。薄いグリーンの付箋。
「昼休み、松河のところまでパンフレットを……」
途中まで読んで、これが松河先生からのメモだと、あの話だと分かった。パンフレットなんて呼び出す口実。分かってる。
時計を見ると、昼休みまであと30分。準備して向かう感じだ。
どうして昼休みに呼び出すの。悪趣味にしか思えない。校内で話をするなんて、それこそ誰かに聞かれたら……。
とにかく、行くだけ行ってみるしか無い。ここで無視することはできない……。行きたくなんか、無い。でも。
封筒に入ったパンフレットを指定部数取り、マチ付き封筒にまとめて入れた。これが使われないことは分かっている。
「クラス担任室に行ってきます」
向かいの同僚に声をかけると、彼は書類の枚数を数えているところだった。タイミングが悪かった。
「45、46……はーい」
数えながら顔を上げないでそう答えてくれた。申し訳ないと思いながら、謝罪を口にするとまた邪魔になると思って、静かに事務員室を出た。
まだ少し早い。階段で向かおう。胸がドキドキして、吐きそうだ。重要な取引。しかも、あたしの部が悪い。松河先生のあの視線を思い出して、背筋がぞっとした。
心を落ち着かせながらと思ったのに、階段で息が上がってしまって、なんだか逆効果な気がする。息を整える。あそこの角を曲がったら、クラス担任室だ。
廊下には生徒が数人。授業の無い生徒だろうか。



