ギアスがエリーシャに手を伸ばした。

「愛する妻エリーシャ。私のためにすまなかった。これからはずっと一緒だ。さあ、行こう」

エリーシャは泣きながら何度も頷き、最後の力を振り絞るとギアスの元へかけ登った。

「皆、武器をおろせ!」

ディアランの命令で、全ての兵士が一斉に武器を下ろし、二人を見守った。

「ディアラン」

最後にギアスがディアランに眼を向ける。

「お前は強いな。もしもお前ともっと別の出会いが出来ていたら」

ディアランはじっとギアスを見つめた。

「来世では友となり剣の腕を鍛え合おう。さらばだギアス」

「ああ」

二人は銀色の月に包まれるようにぼやけていくと、やがて溶けるように消えた。

誰もが微動だに出来ない中、愛世は一気に全身の力が抜けていくのを感じた。

そうだ、セロが……。

「セロ…セロ、」

ダメだ。寒すぎて…痛すぎて…もう、ダメ…。

「アイセ!」

崩れ落ちそうになるのを誰かが抱き止めてくれたが、愛世はもう眼を開けることすら出来ない。

けれど願わずにはいられなかった。

セロ…それに闘った皆が無事でありますように。

ああ。寒い。もう、だめ。

深く深く身体が沈み込む。

名前を呼ぶ声がやけに遠い。

愛世は固く眼を閉じると遂に意識を手放した。

もう限界であった。