「ちょっといいですか‥‥」

ずっと黙っていた幸が声を上げた。

「言葉で伝え合わないと分かり合えないことってたくさんあると思います。私も娘がここまで来たいという気持ちを知って、はじめは驚きましたが、娘がケンくんと話さないと分かり合えないことがある、たとえ子供でもそれは欠かせない。大人の都合の影で子供たちは自分の思いを押し殺してしまいがちですが、それでは子供が哀れすぎます。‥‥こんなえらそうなことを言いながらも、私も離婚の時には娘を犠牲にしてしまったんですがね‥‥」



幸は今まで見た中でいちばん母親らしかった。

アキの目に映る幸はいつだっていい加減で、自分のことが一番大切で、自由気ままで自分勝手な女だった。

だからはじめてみる幸の真剣な姿にアキは自分の目を疑ってしまった。




幸は、アキの横で背筋を伸ばし、袴田と向かい合っている。

袴田は穏やかに言った。

「長谷川さんのおっしゃる通りです。ケンは自分の気持ちを押し殺して無理をしているんだと思います」