「あなたが冴子の‥‥」

そう言ったまま言葉が続かなかった。

「おばあちゃんですか?」

「ええ、そうよ。おばあちゃんよ」

祖母はおそるおそる手を伸ばした。

そしてケンを抱きしめて泣いた。

「かわいそうに。苦労したのね」

母冴子の実家は、旧家らしく立派なたたずまいの大きな家だった。

広い土間はケンの住んでいるアパートの全部の部屋をあわせてもまだ足りないほどだ。

つやつやと光った太い柱、黒光りすらしそうな梁。

見慣れない珍しいものに囲まれてケンは落ち着かない気持ちでいた。



奥から声がした。

「おい、早く中へ通しなさい」

祖父の声だった。

祖母はケンを家の中へ招き入れた。

玄関からまっすぐ続く長い廊下の先に広間があった。

廊下だって三人くらいで並んで歩いてもどうってことないほどの幅がある。

その先の和室に祖父が座っていた。

「入りなさい」

ケンはおずおずと言われるままに広間に入り、正座した。

「冴子の息子か?」

「はい」

祖父は厳しい人だと聞いていたので、顔を見て驚いた。

すっかり年老いて、痩せて小さく見えた。

大柄な人だとばかり思っていたので、意外だった。