「姉上は満足というものを感じたことがおありですか」


ロウは、この生活を気に入っている。

不思議なことだ。
何かを気に入るということは、つまり、他の何かに不満をもつということ。


不満。

満足。


そんなこと、覚えるにも足りない些細な動きでしかないのに。

積もり、集まれば歴史を動かす。けれど、我らが感じたところで、何になるというのか。


「必要のないことよ」


感情はある。
その生き物として、もっているべきだから。
だが、その感情は、あくまでも知識に過ぎない。


「私は……姉上の笑顔が見てみたいのです」


なぜ、ロウの心はこんなにも揺らぎやすいのだろう。


「あの女官たちのように」


請われて王宮の近くに居を構えたのは、50年ほど前だ。
それ以前は獣の形で野山を駆け、あちこちを見て回っていた。


--名高き賢者。神の御遣いをぜひお招き致したい。


しつこい使者は、確かそのようなことを言っていた。


当時この辺りに勢力争いはなく、また、そろそろ人間を間近に観察する頃合いでもあった。
誘いに応じるのも悪くない。時の流れが、そう告げた。