「あ、もちろん、本当の恋人ということじゃないです」
「……では、」
「恋人のフリをしてもらいたいんです」
「フリ、ですか」
頷きながらも、北見さんの視線は何かを考えるように宙を舞った。
彼の名前は、早川慎吾。
32歳。
背もそこそこ高くて、全身から溢れるのは爽やかなオーラ。
真面目そうだし、恋人が出来なくて困るようには見えないけれど、事実困っているそうだ。
最近、久しぶりに連絡を取り合った大学時代の友人に、つい見栄を張って“彼女がいる”と言ってしまったそうで。
その友人と、近々彼女同伴で会う約束をしてしまったらしい。