「もしあれだったら羊君に会うこともできるけど、てかこんなこと私が言うようなことじゃないと思うんだけど。でもなんかその。てか、やっぱ言おうか」

「無理ですよそれ。てか迷ってるなら言わないでくださいよ」

「そんなことないよ」

「やっぱ、っやーーーーーーーーーーめた」

「またそんな言い方」

「美桜さんのあのどうしようもない元彼が私が追い求めていた人だったなんて、ショックでちょっと言葉失いましたけど、まあ、確かに顔だけは、だけは、だけは、いいですよね」

「ちょっと言い過ぎかもって思ったりする?」

「しません。美桜さん意外と面食いなんですね」

「意外とって、そして面食いじゃないと思うよ」

羊君だって松田氏だって言うほどのものじゃないだろうと、二人の顔を思い返してみた。自分のことは勿論棚上げで。

「それに、美桜さんと姉妹になるの嫌だし」

「やめなさいその表現は」

「というわけなんで、あーあ、私の婚期はまた遠退いたー。でも早めに誰だか分かってよかったですよ。そこだけはありがとうございます。でも、美桜さんの元彼、オーストラリア行ってたんですよね?」

「あ、それね、羊君はオーストラリアでタイヤの仕事をしてたんだって。どんな仕事なのかは聞いてもよく分からなかったから深くは知らないけど」

「……オーストラリアでタイヤの仕事?」

「そう」

「……オーストリアでダイヤの仕事なんじゃ……」

「聞き間違いだったみたいだよ」

「っえーーー。うっそ、もう、ショック極まりないんですけど! 私のダイヤモンドー。タイヤなんていらないしー。ダイヤの指輪ー。どっか行ったよダイヤの指輪ー! もー、美桜さんもっと早めに気づいてくださいよー。おっそいんですよほんと」

「ごめんて! ほんとごめん」とりあえず謝っとこう。

上田さんの理想の男性は誠実で優しくて上田さんを一番に考えてくれる、外見は遊び人タイプだそうだ。
それも、見てくれが遊び人で中身は真面目な人を探している。

最後の遊び人タイプで羊君がヒットしたんだろうけども、そもそも遊び人タイプでそんな人がいたら、もう売れているんじゃなかろうかという懸念もあるし、そもそもそんな都合のいい男がいるのかもよくわからない。
いたとしたらとてつもなく貴重だ。

が、羊君に関しては遊び人タイプに見えて、やはり遊び人。
でも、あるところでは真面目だ。
しかし、今のところ自分第一なので、パートナーや自分以外の人を一番に思う時が来るとしたらそれはきっと結婚でもしてこどもでもできたときじゃないだろうか。

なぜだか今ちょっとだけグリーンさんとそのこどもがふんわり頭に浮かんできたけど、何も考えずに消し去った。

店内を見渡してだれかいないかなーなどと物色する上田さんはさすがだ。
自分の理想と合致しないと分かったとたん、次に切り替えるその気持ちの切替えの早さったらあっぱれ。

彼女が最終的に好きになる人を見てみたい。
どんな人を好きになるのか、どんな人が上田さんに合うのか、見てみたいと思った。

時計を見るともうけっこうな時間。
外はしっくりと暗く、夜のとばりがずっしりと降りていて、遊び人な夜の気配が風と共に漂ってきたのを感じ、私たちはどちらからともなく席を立った。