おかげで部屋の中はすこぶる綺麗。
塵ひとつないように羊君は掃除をする。

というかんじに、自然に役割分担が出来上がっている。

そんな矢先、この調和していた空気をかき乱す事件が起きた。

そりゃそうだ、こんな不自然な三角関係がいつまでも続くわけがない。


お花見シーズンも終わり、そろそろゴールデンウィークに差し掛かろうとしていた。

私たちはこの長い休みの間にどこかへ出掛けようと話し合い、海か山に遊びに行ってみないかという話にまとまりかけていた。

もちろん、羊君もそこに入る。

『本当は美桜と二人で行きたかったのに、なんでお前が行くんだよ』と、松田氏に食ってかかるが、

『この旅行の代金はだれが工面すると思ってるんですか? プランニングは? しおり作りは?』

ここでも発揮されるぐうの音も出ない松田氏のひとことは重い。

おさえたところで、
ひとまず近場の山に日帰り旅行に行く計画は順調になされ、宿もコースも松田氏考案の旅は見所満載な計画となった。

あとは行く当日に晴れてくれてさして強い風もなく穏やかになってくれることを祈るのみだった。

「俺、山登り用の服持ってないんだけど」

という羊君の一言で、山屋へ買い物にいくことになったが、私は毎度の腹痛もあったため留守番をすることにして、男二人、羊君は嫌そうな顔をしつつも松田氏は至ってふつうにニコニコ笑みを浮かべて、

「行ってきます」と手を振って、からりと晴れた外へと羊君を引き連れて出ていった。

玄関を開けたときに入ってきた日差しは眩しかったけど、清々しくて、二人を見送った後もしばらく玄関を開けっ放しで二人の後ろ姿が見えなくなるまで見送ることにした。

体に柔らかくまとわりつく陽光が心をほっこりさせる。

途中、何かを察した松田氏が振り返って手を振った。

「松田氏、なんて感なの」

手を振り返したけど、羊君はお構いなしに先を歩いている。

「ま、そういう奴だよね」

ぼそっと言った言葉は松田氏には読み取れたみたいで、羊君を指差してもう一度こっちを見て、『行ってきまーす』と手をぶんぶん振った。

それがおかしくて私も負けじとぶんぶん手を振り回した。