帰ってきたライオン


上田さんには幸いまだ話が回っていないようで、午後の仕事はいつもと変わりなくそつなくこなしていた。

いつ詰め寄られるのかドキドキしながら、でも先に言っておいたほうがいいような気もして、仕事も落ち着く17時すぎになって上田さんにそれとなく話しかけてみた。

あのさ、その例の外国帰りの人ってさ、えーとその、どこから帰ってきたんだっけ? と、振ると、

「いやだからオーストリアでダイヤモンドの仕事をしている人ですよ、いまだ捕まらないんですけど、どうやら今日社食で見たって噂がちらっと入ってきたので明日は社食かなと」

「噂! なんて? どんな噂!」

「……なにそんなむきになってるんですか」

「ごめんつい。でもなんていうのかなー、それって本当にオーストリアかなって思ってさ」

やばかった。ついのめりこんでしまった自分をぐっと抑えた。

「なんかおかしいですよ」

「こう、もしかしたら違うんじゃないかなって思ったり、ねー……」

「美桜さんなんかあったんですか? 変ですよなんか。あっ……分かった」

「なに」

「美桜さん気になり始めたんじゃないんですか? もしくは本人見たとか? だったら誰なのか教えてくださいよね。見たら格好良かったからって取ろうとか思わないでくださいよ、その人に会うために、ただその為に私毎日仕事頑張ってんですから」

「いや、そうじゃなくとも仕事は頑張ろうよ。一緒に頑張ろう」

「何言ってるんですか、いやですよ。仕事はできるだけしたくないんですから。でも彼に会える日を願っているからこその仕事です。じゃなかったらこんなに力発揮しないですよ」


なるほど。

どうして上田さんがこの仕事に来たのか分かった。
面接と実技のところで本領発揮したな。

で、ここにいるわけだが、そうだよね、面接でその人がすべてわかるかと言ったらそんなことはない。
人事部の知り合いがそんなこと漏らしてたの聞いたことある。

どんなに高学歴でも対応能力、対人能力、適応能力の低い人、協調性の無さに加え頭のネジがずれている人多いって言ってたっけ。

逆に学歴はそこそこでとりたて良いところもないんだけど妙に人当たりのいい人もいて、人柄がいいという利点を持っている人もいる。

結局最終的にどっちで人を採用するかっていうと、

『この人と一緒に仕事したいかどうか』ってとこで見るって言ってた。


人と接しない仕事なんてほぼほぼ無いし、人として生きていく中で人との関わりって確実にある。

対人関係において不得意でもそれなりに社会の中でまじってやっていけないと生きていくことが難しいだろう。


それこそ大地主とか、不動産をたくさん持っていて仕事に出なくても生活していける人は別だろうけど、そもそもそんな人がそんなにいるのかすら疑問だし、そういう人ってきっと人付き合いけっこうしていると思う。