帰ってきたライオン


チャラい。
遊んでそう。
香水って会社に必要?
そのちらっと見えるネックレスがむかつく。
髪が遊び人風のセットで更にむかつく。
スーツが無駄に高いやつで輪をかけてむかつく。
その態度がいちいち感にさわる。


「美桜美桜美桜、顔顔。顔険しいよ。怖いからそれ」


眉間に皺をくっきりと刻み睨んでいたことに気づいたけど、同時にくすくすと笑われていることにも気が付いた。

「とりあえずいいから早く去ってよ」小声で訴えるが、

「なんで? 俺休憩だもん。しかも今休憩入ったとこだし」

「だもんじゃないわ! 女子の目が恐ろしいの分かってよね、羊君ファンの怒りに触れたくないし、できるだけしとっりと目立たずに穏便に滑らかに生活をしたい私の気持ちを察してくれ」

「おまえさ、昔からそうだよな。目立つの嫌い、自分から何かを発信するの嫌い、できるだけ静かにおとなしーくしていたい」

「そういう性格だから仕方ないでしょ。矢面に立たされたら体震えるわっ。羊君とは真逆にいるんだよ」

「ふーん、あっそ」

面白くなさそうに椅子に背中を預け、持ってきたコーヒーをずるずると行儀なく音を立てて飲み、髪を無駄にセクシーにかきあげて辺りを観察して、

「そんなに俺のこと気にしている奴いないよ。美桜の勘違い」

「そんなことは……」

おでこに感じたものはこうなんだろう、餅のように柔らかくてちょい暖かめで最初、

『あれ? 餅降ってきた?』

って思ったけどすぐにそれが何か分かった。
派手な香水の香りがすぐそこに漂っていたから。

羊君、おでこにキスしやがった。
青くなる私の顔はさておき、

「じゃ、あとでな。美桜」

『美桜』を強調しむかつくウィンクを残すと、私がぶっ叩こうとしたのを察しその前に席を立ち、手をひらっと振って楽し気に歩いて行った。

そのお尻からはわっさわっさと尻尾が振られているように私の目には映った。

羊君に目をやりながらも周りの女子は私を値踏みする。頭から足先までめったりと舐め、値をつける。

築地のまぐろさながら私はいろいろな女子に隅々まで舐めまわされて部分的に値をつけられているのが分かった。



顔いくら。
髪の毛いくら。
胸いくら。
上半身いくら。
ケツいくら。
脚いくら等々。



誰? あいつ誰? 確かみおって言ったよね、またあとでって言ってなかった? 何者? てか部署どこ。なんなのあいつ。なんであんな親しいかんじなの?

ムカつくんですけど。

と、ざわめく女子の気迫が更に輪をかけて私にシフトされるのを感じ、即座に電話を見て、あたかも着信があったような素振りを振りまき、そそくさと社食を後にした。