帰ってきたライオン


更に聞こうとダンボよろしく耳を大きくしながら茶をすすり、若干体もそっちよりに傾いているその後ろで女子たちがざわめく色が聞こえた。

眉を寄せた。

これじゃ何を話しているのか聞こえないじゃないか。
気になる。静かにしてほしい。
聞きたいぞ。更に耳を大きく力をこめてみる。

食事くらい静かにしなさいよと思っているところで、『きゃー』という声が大きくなった。

松田氏の話をしていた今時の茶髪巻き毛(茶髪巻き毛は会社に結構多い)が振り返った。で、私とばちっと目が合った。

ドキッとした心隠してしれーっと右に目を流し、何事もなかったように茶を口元に持っていき顔を隠す努力をする。

そこでよく嗅ぎなれた香りがふんわりと茶に交じって私の鼻をかすめた。

左側に人の気配。椅子を引く音、すぐそこに座る音、香り、雰囲気、女子たちの視線は隣の誰か。

だいたい分かった。
なるほどこういうことか。
女子の話していた海外帰りのイケメンってこういうことか。
こいつか。そうかそうか。そういうことか、

神様どうか万が一にもあいつじゃありませんように。

と、心で大袈裟に神頼みをし、ゆっくりと左側に顔を向ける。

「こんな時間に飯?」

ああ。

「……羊君」だったんだねやっぱり。

「いつもこんなに遅いの? てか昼から食う量かそれ? すごくね? ある意味ぶ……」

「うっさい。てかなんでいるの? まさかの今からお昼?」
「いや。もう昼は食ったよ。今休憩してる」


ほほほほほう。
お早い休憩だこと。

まだお昼休みから2時間ちょいちょいしか経ってないのにすでに休憩とかって何その仕事の仕方。

ざわめきたつ女子の視線が今度は私に向けられ、けっこう痛めな視線に早くこの場から去りたい気分になる。


「美桜ってこんな時間に昼食うの? どうりでいないわけだよな。社食でも外でも会わないから何してんのかと思ってたよ。弁当なわけないし、どこかで食ってるのは間違いないと思ってたけど、そうか、時間が違ってたのか」

「いやいや羊君、その話、したいのはやまやまだけどさ、ほら、ねえ。うちでもできるじゃん。私もそろそろ帰らないといけないしさ」

小声でそれとなく周りに敵陣がのさばっていることを伝え、去ってくれとニュアンスを含む。

申し訳ないが頼むから早く離れてくれ、そしてできれば話しかけないでくれと心から思った。

待てよ、もしかして海外帰りのイケメンが羊君だとしたら、上田さんの思い人もまたこいつではないか。

考えただけでさーっと血の気が引いた。