咳払いをひとつ、

「それで、いつ帰ってきたの?」

「あー……1ヶ月くらい前かな」

「そ、そんなに前。それまでどこにいたの?」

「オーストラリアだよ。行くって言ったでしょ」

「そうだけど、なんで連絡してくれなかったの?」

「それは……いろいろとそのなんだ、あれだ」

「ごまかさないで。心配してたんだけど」

「……忙しかったっていうか、いろいろと仕事でバタバタしててさ」

「ずっと待ってたんだよ。メールもしたりしてさ、返ってこないけど」

「メール? ああ、電話海に落として見つからなくて、日本の連絡先全て無くしたんだよ」

のらりくらりと話をやんわり丸く隠す羊君は、オーストラリアの海で携帯を無くし、全ての連絡先が分からなくなったということを言いやがった。

それで私にも連絡ができなかったらしい。
でも、パソコンは繋がっていたから私のパソコンに連絡すれば簡単に連絡はついたはずだ。

それを彼はしなかったってことがショックだったけど、パソコンにはプライベートの連絡先を入れていなかったと言った。

仕事はなんとか順調に行き、起動に乗せて上手く動くようになったのを見届けて、日本へ帰ってきたそうだ。が、こいつはなんか隠してる。

「もうここには住んでないのかと思った。ほら、年月も経ってるし、契約も終わってるだろうと思ってたし」

「……待ってるって言ったし、約束したからだよ」

「……」

ああ、この感じはもしかしたら約束した事すらも忘れちゃってるな。ショック。

「とにかく」

松田氏を見た。
睨まれたのかと思ったようで、一瞬肩を震わせびくっとした。さすが草食系(?)見た目は。

すっくと立ち上がり、部屋の襖に寄っ掛かって立ったまま私たちを見下ろしている松田氏のもとへ行き、腕を組んだ。


こうするしかない。
そうだよ、初詣のときに全て置いてきたんだ。過去は全て神様に持って行ってもらったんだから、もう……


「とにかく私、松田氏と一緒に住んでるの。まあ、厳密にはお隣さんなんだけど、いーや、これがどういうことか意味分かるよね?」

「こいつと住んでるってまじで言ってる?」

「まじまじ大まじ。5年の歳月は長いんだよ。そして変わるもんなんだよ。だから……」


びっくりしている松田氏は置き去りにしてグッと力を込めて腕にしがみつく。

口を開き、後を続けようとした時、こたつの上に置きっぱなしだった羊君のスマホが振動し、画面にパッと写真が浮かび上がった。

それを見た瞬間、心臓が口から飛び出るかと思った。

羊君は慣れた手つきでスマホを操作する。その間も私から目をそらさない。だから、その写真を見られたなんて思ってもないと思う。