「羊君ちょ……」
私の発した言葉を遮り、
「えーと、けっこう言いますね。てか成田さんそんな女じゃないですよ」松田氏が割ってはいってくれた。
「お前は黙ってろよ」すかさず羊君が重ね、
「だから、松田です」
「知るか」
羊君、外見は変わっちゃって、変な香水も振っちゃってるけど、性格はあんまり変わってないだろうって勝手に思ってた。そうであってほしいと願ってた。
思ってたけど、昔よりも輪をかけて悪くなった気がする。
言うほど良くなかった性格だけど(昔から自己中だったし)その中にも優しさがあったから一緒にいられたし理解しているつもりだった。
のに、だから、なんかムカッとして、
「違うよ羊君」
「何が」
「松田氏はそんな理由じゃない」
「……じゃ、なんなの?」疑いの目で見られてる。
「松田氏の部屋……」
松田氏は天を仰いで首を振りながら下を向いた。
羊君は不思議そうな顔をして私と松田氏を交互に見る。
でも大丈夫。
「松田氏の部屋……水道工事だけじゃない。天井から雨漏りしてるから床も水浸しでね、畳やばいの。だから住めないんだよ。だからここにいる。だから一緒に住んでるの。だから、そもそもそのなんだえーと」
「成田さん、落ち着いて、もういいですから」
「そうだよね、ちょっと待って、え」
「あんたには関係ないことだから、なんで俺がここにいるのかなんて言うわけないでしょ」
松田氏は飄々としていてそれに対して何も言えない雰囲気を出していた。だから、
深呼吸して、
「羊君、5年間何してたの? ぜんっぜん連絡もないから心配したんだよ。私ずーっと連絡してたんだよ! 帰ってきてるなら帰ってきてるで連絡のひとつもできるんじゃないの? で、いきなり現れたらすごい別人みたいに変わっちゃっててさ、で、コーヒーショップにいるって言ったのにいきなりうちに来てるしさ、これ、私いなかったらどうしてるつもりだったの?」
「……ここ来て待ってりゃ帰ってくるかと思って」
「な わ け ないじゃん! コーヒーショップって言ったの羊君だよ。なにやってんの!」
「だってお尻痛かったんだもん」
「は?」
しかも今『もん』て言った?
空耳じゃなければ目の前にいる羊君のお口から、『もん』てワードが飛び出した? 鳥肌立ち上る気配をぐっと飲み込むと、
「美桜覚えてない? エレベーターのところでさ、美桜の尻パンチくらったんだけど」フラッシュバック来た。
「まさかのあれって羊君だったの? 本気で?」
「そう。すげー尻力でほんとビビってしばらく言葉でなかったわ」
「えっ、成田さんの尻パンチって何の話ですか?」ちらっと私のお尻を見る松田氏に、
「見てんじゃないよ」と、怒る。
「俺はすぐ美桜だって気づいたけどそのまま俺のこと見捨てて下に行ったよな」
「見捨てたわけじゃない。人いっぱいで振り返れなかったというか。えーと、てかそれなら早く言ってくれたらいいのに!」
「それはそうなんだけど……わるかったよ」
「……」
やばい。
いきなり謝られちゃったらもう何も言えないじゃん。拍子抜けするわ。それに、しれっと話をそらされた気がするのは気のせいじゃないはず。

