こたつの上にはみかんのカゴ。
きっと帰りがけに松田氏が買ってきたんだろう。隣には虎屋の最中もある。
ここの最中は季節ごとに限定のものが出るので密かに楽しみにしているものでもある。餡もキメ細やかで滑らかな舌触り。
その横には一口大のゼリー。
大きな袋に入っているざらめのついた寒天ゼリーだ。その辺のスーパーにも売っている昔ながらのお菓子だ。
渋みの利いた茶によく合うと思う。
楽チンな格好に着替えて半纏を着て肩までこたつに入って食べたらおいしいだろうななんて考えるのは自由だ。
そこまでは自由だ。
しかし今私は自由じゃない。
目の前には今の今まで探していた羊君がちゃっかりとこたつに入っている。
そしてどういうわけか茶まで飲んでいる。さらには湯飲みの横にはみかんの皮。
絶対にみかんをたべて茶を飲んだに違いない。松田氏はなんで茶なんぞを出したんだろうか。
しかしなんでここに羊君がいる。コーヒーショップって言ったのに。
「なんか、寒かったからうちに来たそうですよ」
「お前んちじゃねえだろ。美桜んちだろうが」
「……今は俺も一緒に住んでるんで」
ぜんぜん解せぬ。
なにやら不穏なのは分かる。
話し方からして松田氏がうちに住んでることも既に言ってある感じだ。
「工事いつ終わるんだよ」
「いやだからまだ未定です」
「工事?!」
「水道工事なんだろ?」
羊君に『水道工事なんだろ?』と言われ、ゆっくりと松田氏を見た。
……あぁ、きっとあれだ。おばけがでるからっての言えなかったんだなってのがわかってなんだかおかしくなった。なっちゃダメなところだけど。
「だいたい美桜も美桜だよ、なんでそんなよく分からない奴を部屋に入れて共同生活してんだよ。大家とかに言えば空いてる部屋くらいあんだろうが。誰でも入れてんのか」
カッチンきた。
音信不通にしてた人に言われる筋合いはない。
誰でもうちに入れて遊んでる女的に思われるのは心外だ。
そもそも、そんなこと言われる覚えは、無い!

