帰ってきたライオン


LINEが入っているのに気づいたのはかれこれ30分ほど経った時。

コーヒーも飲み干し、手に持っているカップも冷たくなった頃だ。

着信も3回入ってる。
発信元は松田氏から。

こんなことって珍しい。いつもだいたい一回のメールで、立て続けにこんなに送ってくるなんてことなかった。

なんかあったのかと思い、持っていたコーヒーカップを音を立てて置くと急いで通話ボタンを押した。

『成田さん何してるんですか、出るの遅すぎ』

「ごめん、てか何どうしたの?」

『さっさと帰ってきてくださいよ』

「は?! 何言ってんの? だって今日これから」

『そこにいても待ってる人、来ないですよ』

「どゆこと松田氏、どうした? なんかあった?」

『いいから、早く帰ってきてください。言っときますけど、朝まで待っていても絶対に来ないですから。じゃ、待ってますよ』


一方的に話し、一方的に切られた。そして一方的にキレている風だ。

なんだ、なんなんだ、どうしたんだ松田氏。なんだかイライラしているふうだったけど、なぜそんなに帰ってこいと……

待て待て待て。そういえば、

『まだあそこに住んでるの?』

そんなことを羊君が言っていた気がする。
ごくりと唾を飲んだ。

もしかして、まさかのもしかして。羊君、うち来てるとか。
あれならやりかねない。とも思うけど、そんな何年も会ってないのにいきなり家に訪ねてきたりする?

底に残っているいくばくかのコーヒーを無理矢理喉に流し入れ……いや、正確には無かったんだけど、最後の一滴を口に流し、コートをひっつかみ歩きながら羽織ってついでにマフラーをきゅっと巻いた。

店を一歩出たら冷たい風が顔を滑るように流れる。

肺に入ってきた空気も冷たくてひんやりする。

でも、もしかしたらこの風よりも冷たいものが待ち構えているかもしれないと思うと、必然的に足早になって、最後には走っていた。