帰ってきたライオン


19時を回って早45分が経過した頃、ようやく今日の仕事の終わりが見えた。

ひとつ飛ばしでついている蛍光灯は会社の節電対策で、そんな寂しい天井を仰いで深呼吸。

首を左右に回せば軽く骨が鳴り、肩を回せば骨と骨がぶつかる音が体の中から伝わってくる。


今日も順調に疲れている。


でもこれからもっと疲れることが待っている。
外のコーヒーショップでは羊君が待ち構えている。いったい何を話すというのだろうか。話すのが少しばかり怖くもある。

ランチのときに松田氏に言われたことを考えてみた。どうして何も言えなかったのか。

まず、びっくりしたから。とりあえずこれだ。
次に、どうしてここにいるのかという疑問。

更に、見事な変わりようになんと言葉をかければいいのかとっさに思いつかなかったこと、言おうと思っていたことを完全に一瞬で忘れた。

そして、ちゃんと帰ってきて元気なんだっていう少しの安心と、なんで連絡してこなかったかっていう怒りがミキサーの中で唸る野菜のようにぐるんぐるんに回ってどろどろにミックスしたから。

だと、思う。

だから、これから会ったらまっさきに言うことは、


『なんで連絡してくれなかったの?』とは言わず、

(そんなことは言わずとも分かるだろうから)



『元気だった?』

これ。

元気ならいい。

広域でカバーすると生きていてくれただけで素晴らしいことだ。

それからあとはその場の状況次第でどうにでもなるしそのうち言葉もみつかるだろう。

まずは労おうと心に決めたのはついさっきのこと。

上田さんが帰り際にくれた缶コーヒーがきっかけになった。

そんなことをする人じゃないんだけど、でもそんなことをする人じゃないからこそ『ありがとう』って思えたし、その気持ちが嬉しかった。

きっかけってそんなもんだ。