帰ってきたライオン


「で、さっきのあのチャラいのが成田さんの元カレですか?」

食後のコーヒー(サービスで無料)を喉に流している途中で話を戻してきた。

さっき食べた焼き魚諸々が既に違う次元に行ってしまったようで、今ごろは宇宙をさ迷っているのかもしれない。

人体は壮大な宇宙で、細胞ひとつひとつに宇宙がある。もしかしたら今私たちの生きている現在も他の誰かの細胞の中なのかもしれないとはどこぞの学者のことばだったか。

魚の背に乗ってやや明後日な方向へ飛んだのは自覚しよう。

「成田さん?」

戻された。
離脱した意識を松田氏はいとも簡単にこっち側へ戻してきた。

「そうだよあれがそう。さっきの見てたの?」

「はい。エレベーターの中から」

「いたの?」

「気づいてないの成田さんだけですよ。手を振ったのに床に落ちた100円見つけるのに夢中だったでしょ」

「そうなのそうなの100円落としちゃってさ……って、違うし」

松田氏はエレベーターの一番奥にいて、羊君とのやりとりを全部見ていたそうだ。

そして、あの後、エレベーターの中の女子たちの空気が変わり、羊君にハートな目を向けていることにも気づいたそうだ。
そこでピンときて、走って戻ってきたらまだ私がそこでつったっていたので、さっきの男が私の元カレに違いないと完全に近い推測を打ち立てた。

そしてその推測は完全に合致したわけだ。

「すごい変わりようでね、最初誰だか分からなかった。でも、声と目は変わってない。でも、なんていうか、もう違う人になっちゃった感がすごかった」

「チャラ男?」

「チャラ男言うんじゃないよ。昔はあんなんじゃなかったんだから」

「へー。で、どうするんですか」

「今日、仕事終わってから会って話そうって言われた」

「何を?」

「そこだよ、松田氏。そこ問題。さっきだって何も言えなかった。会ったら絶対言ってやろうと思ってたこと、たくさんあるのに、言えなかった」