帰ってきたライオン


社食にはまばらにしか人がいない。

もっとこうたくさんの人がいるのかと思ったんだけどと不思議に思っていると、

「今日の社食のメニューは人気がないから、だいたいみんな外に食べに出る日だ」と教えてくれた。

毎日きちんと時間通りにランチを取れる人はきっとこういうことも知ってるんだろうな。

三時にランチに出る私には全てが新鮮でまるで新入社員に戻った気分になる。

「成田さん何します?」

「これ、かなり迷うね」

食べ物に釣られ今さっきの事件のことなんて頭の片隅に追いやり、松田氏を道連れに行ったり来たりした。

「あー、きっと成田さんこれ好きだと思いますよ」

「どれ」

「ほら、この焼き魚定食Aセット」

「いろいろな角度からおもしろいねこれ。ふつうA定食B定食とかだよね、これもう焼き魚って言っちゃってるのに」

「そこが、この定食のいいところなんですよ。じゃ俺焼き魚のB定食で」

松田氏はB定食を、私はA定食をそれぞれ頼み、手際よくトレイに乗せ、会計を済まし、窓側の席に腰を落ち着けた。

松田氏が頼んだB定食には、ごはん、味噌汁、焼き魚、ほうれん草のおひたし、サラダ、てんぷら盛り合わせ、お漬物。

私のA定食には、ごはん、味噌汁、焼き魚、ほうれん草のおひたし、サラダ、肉じゃがコロッケ2つ蟹クリームコロッケ1つ、お漬物。

なんだかとんでもなくお腹の痛くなりそうな組合わせだけど、嫌いじゃない。
ボリュームもかなりのものだし、何よりこの値段でこれだけの量だ。

言うことは何もない。

入社してはじめての社食。
無言で一気に平らげる勢いに、いつも通り松田氏はへらへらと笑っている。

「これかなりいいね。これだけあって680円とかってあり得なくない?」

「でしょ」

「松田氏はよく来るの?」

「そうですね、外出る時間がもったいないから、ここでサクッと食事して、あとはのんびりしてることが多いですね。本読んだり、考え事したり」

「本か、それもいいね。時間気にしなくていいもんね。考え事ってどんなこと?」

「対した考え事じゃないですよ。今日の夜は何にしようとか、午後の仕事の順番とか、あとは少しでも時間があったら仮眠したりしてのんびりしてますよ」