「美桜」
「……羊君」だよね?
チャラってるけど目は変わってないし、たぶん本人。
しばらく無言で視線を合わせるが、お互いになんて言っていいのか分からない。
そんなとき、羊君の手にしていたスマホにLINEのお知らせの音。
電話、あるんだね。
LINE、あるんだね。
私にだって連絡、できたわけだよね。
なんで、何年も連絡してこないの。
言いたいことは盛りだくさんある。でも、言葉が喉から出てこない。
「美桜さ、まだあの家に住んでる?」
首を小さく縦に振った。
「……そっか」
同じように縦に振って、そのまま足元に視線をやった。
「帰り、話せるかな」
帰り話せるかな?
「あ、用事があるならまた今度でもいいんだけど」
「ないよ。話……したい気もする」
最後はほぼほぼ聞こえないような霞んだ音になったけど、ようやく声がその役割を思い出したように喉から飛び出した。
「分かった。じゃ、帰り、下で待ってる。俺いつも定時で上がるけど、他の部署ってそういうのあんまり聞かないし」
「定時は無理。1、2時間はかかる……」
「うん、分かってるつもり。会社の目の前のコーヒーショップに入ってるから、美桜が会社から出てきたらすぐ行く」
またLINEのお知らせの音。
確めもしないで持ったまま。
「……分かった」
「じゃ……あと……で」
「……うん」
ぎこちない会話。丁度エレベーターが来た。
羊君は私に軽く会釈して、何事も無かったように中に滑り込む。私は下を向いたまま、乗ることができない。
乗り込んだ羊君の視線が頭上から伝わるけど、そっち見る気にならない。無理だ。
食事の気分じゃなくなった。
こんなことならいつも通りの遅いランチでぜんぜんよかった。
こんな再会、望んでない。

