帰ってきたライオン


「美桜さん知ってます?」

「たぶん知らない」

「まだ何も言ってないじゃないですか」

彼女は上田ルル25歳独身ただいま絶賛彼氏募集中。
以前ここにいた私の後輩で一番頼りにできた花田美香25歳彼氏あり寿(予備軍)退社。

彼氏ができて婚約までこぎつけたら躊躇なく辞めて行った私の相棒(だった)
の、後釜にやってきた上田さんは会社内の情報はなーんでも知っている歩くスピーカー。

そして私の手となり足となり邪魔となり、ふらりふらりとここにいる。

誰と誰ができていて、誰と誰が愛人関係にあって、どの部署にイケメンがいて、どこに住んでいて週末は何をしてるかとか、そんなことばかり仕入れてくる。

それを毎回私に詳しく教えてくれるので、私は自力で探すことをしなくても社内の内情を把握しちゃっているわけでして……

「海外営業部に超絶イケメン登場ですって」

「へーそーなんだふーん」

「で、どこかえーと……オーストリアだかスイスだか中東だかから帰ってきて、超やり手なんですって。しかもしかもしかもー……」

「「独身」」

「え? やだなんでわかっちゃったんですか?」

「上田さんのそのテンションの時はだいたいイケメン独身でしょ」

「それからそれからー……どうしようかなー、聞きたいですかあ? えー、どーしよーかなー」

「もったいぶらないで言う! じゃないと仕事回すよ」


「ダイヤモンドの仕事してるんですって! ダイヤですよっ! 欲しい! 欲しくないですかあ、ダイヤ!」

「…………上田さん」

「は~い」

「何そのざっくりした情報。ぜんんぜん見えない。それにさ、仕事でダイヤ扱ってるだけで別に手に入るわけじゃないよ。もういいからはいこれ宜しく」