帰ってきたライオン


「じゃ、成田さんはなんでここに?」

「え、この子はただここが安いからとかそんな理由でしょ?」

「あ……まあ、そうですね、安いし、のわりに日当たりもいいし、駅も近いしってとこでしょうか」

て、そんなことじゃないよ、なぜ否定しない。
そのままじゃ大家さん勘違いするじゃん。

「まあ、あれですよ、松田君のとことはご両親と話つけてあるんでね、成田さんと一緒の部屋にいるってーのは内緒にしとくから」

と、違う方向でほっこりされても困るから、

「彼女じゃ、ないんで」と、言ってみる。

「あ、そうなの。これからってことかな。ま、いいよ。若い者同士で楽しみなさいな。そろそろ冷えるからちゃんと窓を閉めてね。あ、それから塩を撒くのはいいけど、全体的に錆びるとあれだから気を付けて。最後に……」


戸口でつっかけをひっかけ、廊下に出て、いまだ部屋の中で正座をする私たちに向かって、







「ここ、出るから。ふへ」







なんたるカミングアウト。

跳び跳ねるように起き、窓を閉め、松田氏は手当たり次第に持てる物を掴み、私は持っていた塩を壁一面に野球選手よろしく投げつけた。ストライク、ボール、フォーク、なんでもありだ。

後ろで『ああ、部屋中錆びちゃうよーおおお』という大家さんの弱々しい声を聞き流し、部屋中に塩全てを撒き散らし、急いで電気を消して廊下に出た。


松田氏と二人並び、合掌して一霊、いや、一礼。


慌ただしくドアを閉め、向かいの私の部屋にダッシュで戻り思いきりドアを閉め鍵をかけ、こたつに肩まで入って無言で切れた息を整えた。

お互いの顔には恐怖が滲みあがっていた。
廊下では大家さんの鼻唄まじりの下手な歌と、つっかけが廊下を叩くぱったんぱったんという音だけが小さく申し訳程度に響いていた。

外ではすずめがちゅんちゅんちゅんちゅんと軽やかな音色を奏でていた。