帰ってきたライオン


「一緒にね、住んでる」

「……」

後ろの大学生のどっかーんと弾ける極大大笑いと上田さんの『ぎゃー』という悲鳴が重なって、私の耳は痛くなった。
たぬきのような店主もナイフを持ったまま耳に手をやって顔をしかめた。が、すぐに笑顔になった。

「まじですか」

「まじ」

「ぱないですねそれ。やりますねなかなか。彼氏どうするんですか」

「だって5年も連絡ないんだよ、もう終わってるんじゃないかって思うし、いやいや待って松田氏の話だよね」

「松田氏?」

言いながら鼻で笑われたのが分かったが、どんな経緯で松田氏がうちに居座っているのかをざっくりと説明した。

眉間にシワをふんだんに寄せて、つまみに頼んだイカ焼きをつっつく上田さんは、はーとかへーとかほほーとか適当に相づちを打ちながら、イカをからしマヨネーズにたっぷりとつけている。

「確かに、5年連絡がないのはもうあれですよね、自然消滅。きっともう興味なくなったんでしょうね」

と、歯に衣着せぬ物言いが飛んでくるだろうと予測し、ガードしていたけれど、ものの見事にそれが飛んできたため、心はことごとく打ち砕かれた。

「けっこうはっきり言うね」

「だって5年ですよ」

「何回も言わなくても分かってるよ」

「松田氏でしたっけ、それでいいじゃないですかもう」

「またそんな身も蓋もない」

「だって、一緒にいるってことはそんなかんじなんじゃないんですか」

「まあ、楽だよ。それに何もしてこないから安心してるってのもある」

ここでまた上田さんの『ぎゃー』という悲鳴が聞こえてきたが、後ろの大学生の大笑いとまたもシンクロした。

だって、本当になんにもないんだ。
一緒にいても何もない。