「ぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおいぃ!!!」
どっかの芸人さながら叫び走ってくる輩が一人。
手にはなんか買ってきたとおもしきビニール袋。
真っ青な顔をしながら手に握りしめられているのはなんかのチケット。
「抱き合ってるとこ悪いが、やばし!」
羊君の顔が真っ青、頭はぼさぼさ、息を切らして私と松田氏を、交互に見る。
「どうしたの? 買いたいものがなかったとか?」
「ああ、それなら仕方ありませんね、ん? ソフトクリームが売り切れだったとか?」
「ちげーし!」
「お金が足りなくなったから取りにきたとか?」
「貸しましょうか?」
「ちげーんだって! それに金はあるって!」
「じゃ、どうしたんですか?」
「これ!」
震える手で松田氏の目のまん前につき出したチケット。
「近い近い近い」と松田氏は眉をひそめ、チケットをうっとうしそうに受けとり、ぴらりと開いて目を走らせ、
はっと息を飲み目を見開いた。
「だろ」
「だろっじゃないですよ! 何そんな得意げに。なんですかこの初歩的なミス!」
「え、なに、どうしたの、何があったの」
「時間、間違えてます」
「は?!」
腕時計を確認し、
「あと一時間で飛行機出ます」
松田氏は羊君をまっすぐに見やるが、羊君は両手を頬にくっつけ、「あーーー」とわざとらしく叫ぶ。
「松田氏! お前の峠を走るドライビングテクニックで俺を空港へ送ってくれよー」
「羊さんに松田氏呼ばわりされる覚えはありませんが、なぜ峠のことを」
「俺だってその昔走ってたんだよ! さっきこっちにハンドルを切ったさばきを見てぴんときた。お前もいただろあそこに」
「は、は、何の冗談を」
「松田木星、思い出したんだよなこの前名前聞いたとき。お前伝説の……」
「はいはいはいはいはい! 言わない言わない、ほら、急いで行かないと間に合うものも間に合いませんよ」
「じゃ助けてくれるんだな! なら言わない」
「なんの話、私も混ぜてよ!」
「美桜さんはいいですから!」
「なんでよー! 隠し事反対!」
「おい、お前いつの間に調子こいて美桜とか呼んでんだよ、あ?」
「はいはい、シートベルト!」
「話が終わってねーぞてめー」
「なんの話! 私も知りたい!」
「……本当に知りたいですか?」
「ん」
「これから分かりますよ」
にたっとまた企むように笑った松田氏はタイヤの音を派手に軋ませ、アクセルを全開にした。
「こーのタイヤの使い方は間違ってるぞ! これじゃタイヤが可哀想だろうが! 一瞬でダメになる! そんなことのためにタイヤに生まれたんじゃねーぞ!」
羊君の言ったタイヤのどうでもいい話など頭に入ってこなかった。
スピードを上げた松田氏の運転に、
「ぎゃーーーー!」という悲鳴あげっぱなしの私。
「法廷速度ギリギリで(たぶん)行きますから大丈夫です!」
落ち着かせようとする松田氏に、
「ひーーーやっはーーー!」はしゃぐ羊君がいた。

