帰ってきたライオン


あのあとまだグリーンはぶつぶつぼやいていたけれど、羊君は羊君で待たされた私の気持ちを分かってくれたから。

ちくちく言われ続けているのを見てちょっと可哀想な気もしたけど、よく思い知ったかこのやろうって気にもなった。


家へ帰る帰り道、私と松田氏は無言。
羊君に至っては、「今日休む」宣言を放ち、グリーンの滞在しているホテルに残った。

ホテルを出るときに羊君が松田氏に耳元で何かをささやいたけど、それがなんなのかは聞こえなかったし、グリーンに話しかけられたのもあって何を話したんだか聞くこともできなかった。

程よい距離だ。

近くもなく遠くもない。しかし、何も話さない。
ロビーでだって、松田氏は私に何一つ話しかけなかった。
羊君の一斉一代の告白にも動じず、疲れた表情の上に笑みを浮かべているだけだった。

組まれた足の上に置かれた手が遠い。

反対に、目の前でグリーンは羊君の胸に飛び込んでいた。

そんな勇気は私には無い。まかり間違ってそうなったとしたら百年は寿命が縮むというものだ。



いつもの通りに忙しい朝が駆け足で近づいてくる。
においでわかる。生物が動き出すにおい、鼓動が辺りを浸食し始めた。

慌ただしい朝のラッシュを迎えるに辺り、空気も慌ただしいものに変わっていく。

そんなことを考えていたら既に家に着いていた。

「なんか、久しぶりな気がします」

「そんな気が私もするよ」

玄関のドアノブに手をかけて回した後、振り返って力無く笑った松田氏に、あぁ、疲れてるんだろうなって思った。

静まり返った部屋は朝出てきたまんま。
台所には羊君が作ってくれた朝御飯の残りと洗い物もそのまんま、布団は敷きっぱなし、脱ぎっぱなしになっている。

汚れた部屋の中を確認するように眺め、くるりと私の方へ振り返った。

「聞きたいことはたくさんあるんですが、とりあえずシャワー浴びて寝かせてください」

「うん。ひとつだけ、いいかな」

「はい」

「松田氏、一晩中、何をしてたわけ?」暗雲たちこめ、

「勘弁してくださいよ。よからぬことを考えているみたいですがそんなことするわけないじゃないですか」

「ほんと?」

「百パーセント」

力の入らない顔に無理矢理笑みを作るとシャツのボタンを外しにかかった。

「わ、わかった、じゃ、私はこっちに!」

どんどんシャツを脱いでいく松田氏にびっくりしてこたつ(昔)のあった部屋に急ぎ、ピシャッと戸を閉めた。

シャワーを浴びている間に羊君と私の布団をすみに片付け、松田氏の布団を松田氏の借地に敷いた。

お風呂から上がるとそのまま布団になだれ込み、3秒待たずに深い眠りについてしまった。