帰ってきたライオン


つまり、グリーンの予定では、松田氏をひっつかまえて必要な日本語を教えてもらい、自分が国へ帰る最終日に羊君に話をするために会うという計画。

それに巻き込まれた松田氏は、あれよあれよと押されまくり、連絡する暇なく今に至っている。



私と羊君はコンビニで買ったおむすびで夜ご飯を済ませ、さっさとシャワーを浴び、早々に床についた。

半日走り回っていたのでさすがに疲れる。

それにお互いに連絡を待っている人からは何一つ連絡がない。
それでも、一人でいるよりは二人でいたほうがまだ気持ちも紛れるってもんだ。


布団に入っているけれど、やはり私たちは眠っていない。

今、隣に並んでいるのにお互いの気持ちは遠く離れている。

なんだか切なくてちょっぴり悲しいんだけど、それでもそれを上回る何かがある。

そんな気がした。

「美桜」

優しい声で呼ばれたのはどのくらいぶりだろう。こんな声で呼ばれたのはもうずっと昔のような記憶。

ふっと懐かしい思い出が頭をよぎった。でもそれだけでそれがなんなのか思い出すことはなく、もう過去の記憶で決して今じゃない。

「ん?」

たっぷりと余韻を感じてから返事をすると、

「ごめんな」



羊君はもう私には気持ちがない。
心臓が痛む。でも、



「うん」

「悪かったと思ってる」

「……」

わかってたし、そうなってるって気づいてたから、大丈夫だと思ったんだけど。

鼻の奥が痛くなってきた。涙をこらえて、瞼を固く閉じれば涙が筋となって頬に落ちる。

分かるように数回音を立てて頷いた。

何かを察知したんだろう、羊君はそれ以上何も言わないで反対側を向いて布団を頭から被った。

ぽろぽろこぼれ落ちる涙は止められず、ああ、これで本当に終わったんだってそう思うと、悲しくなった。悲しくもあるけど、すっきりしてもいた。

松田氏には申し訳ないけど切なかった。

だから、私も反対側を向いて頭まですっぽり布団にもぐった。