帰ってきたライオン


午後一で会社を後にした。

初夏の香りが鼻につき、日差しも日を増すごとに強めになる。ぎらつく太陽もそろそろ全盛期とばかりに両手をふりふりしながら光を振り撒くだろう。

真夏にもなればセミも勢いよく鳴き叫び、お盆には心霊番組で背中を冷やすことになる。

ふと思った。

松田氏の部屋のおばけくんだりはまだいるのだろうか。
まだのさばってるのだろうか。

あれ以来松田氏は部屋には帰らずその話すら出ない。

今度聞いてみようと心の片隅に置き、地面を蹴ったその時、電話のバイブが手の中で振動した。

知らない番号からはいつもなら出ない。でもなんだかこれは出たほうがいいような気がして咄嗟にスライドした。

「もしもし」

『ちょまじ合流しようぜ』

「……えーと……誰?」

『俺だよ』

「羊君?」

『この前見たコーヒーショップで待ってるから急げ』

「ちょちょちょちょちょちょちょ」

いろいろ聞きたいことがあったのに、羊君は一方的に言い切るとさっさと電話を切ってしまった。

ぜんぜん変わらないんだこの人。
もしこれが松田氏だったら、ちゃんと最後の挨拶までしてから切るはず。

などと考えている場合じゃない。
電話を握りしめ、勢いよく走り出した。

コーヒーショップまでは近い。走ればほんの少しで着くはず。

午後は一分たりとも無駄にできない。

羊君が私に連絡をしてくるってことは羊君は羊君で探したけど、どうにもこうにもならなかったってことだ。

見つけ出せなかったんだ。

そう思ったら、全速力で走り出していた。