帰ってきたライオン


ぴぴっと消された電気。

暗くなった部屋には『シーン』という音しか聞こえない。

時おり外を通る車のタイヤ音が聞こえてくる。その都度、羊君が、

「今のはどこどこのタイヤだ。とか、今のタイヤはそろそろ危ないとか、ん? いったい何年前のタイヤはいてんだよあぶねえな、今のトラックのタイヤは一番いいものだ、金の潤ってる会社に違いない」と、ぶつぶつ言っている。

いつもならつっこむところなんだけど、今日は私も松田氏も何も言わない。いや、言えない。言いたくない。そう、言いたくない。

「あ、あのバイクは前と後ろでタイヤの種類違う」などとまだぶつぶつ言っているが、誰も突っ込まないのでいい加減諦めた。

壁の方に顔を向けて布団をかぶって静かになった。

私は暗い天井をじっと見ていて、外の通りを通った車の音を聞いていた。

羊君がまた今のはなんちゃらと言ってくれるのかと思っていたけれど、もう何も言うことはなかった。

すぐ横で寝ている松田氏のほうをちらっと見て、様子を伺う。

暗いからよく見えないけど、同じように上を向いているように思った。

でも、寝ていない。

羊君も松田氏も私も寝れないんだ。

すごーくいやな空気になっていて正直寝苦しい。

そういえばちょっと前に松田氏が言っていたっけ。

隠し事をしたら居づらくなる。そしてぎくしゃくすると。

松田氏はきっとこうなるのが嫌で、こういう空気になるのが嫌で、今までそうならないように接してきてくれてたんだと思う。

だって、いきなり見ず知らずの、それも私の元彼氏が変な理由から一緒に生活することになったんだからそれだってかなりのストレスだと思う。

それでも受け入れてくれたのは、彼の優しさだろうし(まあ、ちょっと変わっているってところも付け加える)

それに、自分だって部屋におばけがいるといった変な理由からなんだから、強くは言えなかったのかもしれない。

更には、もし断れば私が嫌な気持ちになるかもって思ってくれたからなのかもしれない。

そんなことを言ったって私だって十分に変だ。

今現在進行形で好きな松田氏と一緒に住んでいて、でも好きなだけで彼氏とかじゃないからなんにもしていない。

それなのに、昔の彼氏も一緒に住まわせていてふらふら揺れていた。

そう、揺れていたんだ。風に揺れる柳のごとくゆらゆらと。

何かが変だと思ってはいたけど、ようやくちゃんと分かった。

私、羊君のこと考えるとき、過去形になってることが多くなってる。

それってもう、心が羊君を過去にし始めたからだ。

羊君と二人で食事に行ったことを言わなかったのだって、変に心配させて悲しませたくなかったからだ。