「今日ってさ、何してたの?」
「いつも通り仕事を」
「そうじゃなくてそのあと」
「あと?」
「うん。仕事帰りにどこか行ったのかなーって思って」
「なんでそう思ったんですか?」
「う……それは」
なんだこのいたずらに笑む目は。
松田氏は面白がっているようにしか見えない。
そして、困らせて楽しんでいるように見える。
「いやほらたまにはどこか行って外でごはん食べたりしたのかなーって思って」
「成田さん置いて? まさか。行くならちゃんと言いますよ、それに行くときは一緒に行きますよ。俺はね」
指をこたつテーブルの下で世話しなく動かした。
だって、私、羊君とごはん食べてきたって言ってないし。
言うチャンス逃しちゃったし、どうしよう。
それに、なんか松田氏は気づいてるっぽいし。
松田氏はといえば、また湯呑みを口につけ、テレビを見ながら心なしか笑っていた。
なんかそれとなくはぐらかされた気がするのは何故だろうか。
小さめの音でテレビからお笑いの声が流れてきて、シャワーの音も止まったから羊君がそろそろ上がってくるはずだ。
「いー湯だったなー。美桜、どうぞ」
「ありがと、後で入る」
「落ち着いちゃうとまた入るのめんどくさいって言いますよ、今行っちゃったほうがいいと思いますけど」
「……そ、それもそだね、うん、じゃ、そうする」弱いな私は。
ここは羊君にバトンタッチしたほうがいいと思って、よっこらしょっと立ち上がりバスルームの前で上半身裸で腰にタオルを巻いて仁王立ちしながら冷えたビールをごくごく飲む羊君に目で『まだなんも聞けてない、すまん』ということを伝えた。
羊君もビールを飲みながらひとつ『わかった』と頷いた。
シャンプーの香り残りまだほのかに暖かいバスルームの戸をパタリと閉じた。
頭からシャワーをかぶった。
焼き鳥のにおいがする。
ああ、松田氏は全部分かってたんだなって思った。
あんな煙もくもくのところにいたんだ、二人とも同じにおいだったに違いない。
『行くならちゃんと言いますよ、俺はね』
ひっかかってたことばがあったんだけど、意味が分かった。
あー、何をやってるんだ私は。
流れるシャワーに乗ってくる焼き鳥のにおいが忌々しくて、ポンプからシャンプーをたっぷりプッシュして、いつもなら泡立ててから髪につけるんだけど、今日はそのまま髪の毛につけてワシャワシャ激しく洗ってみた。
早くにおい消えろ!
って念じながら。

