帰ってきたライオン


「ちょっと成田さん、明後日な方向の考えのところすみませんがそこどいてくれます? お湯沸いたので」

「あ、え、お、おお」

「おおって、男の人みたいですよ」

「ごめんごめん」

「いや、いいんですけどそれはそれで」

見ればいつの間にか羊君はシャワーを浴びているようで、いつもの聞くに耐えない雑な歌を気持ちよさげに歌っているのが聞こえる。

また先にシャワーを取られて肩を落とす。

きっと私がよからぬ考えをしているのを見て、チャンスと思ったんだろうな、先に取られた。

羊君は小一時間出てこないので、まったくお風呂の中で何をやっているんだかといつも思う。

がしかしだ、出てきたら言おうと思っていても、出てくるとすぐ忘れてしまう。

その繰り返し。

「はい、成田さんどうぞ。羊さんはまだまだ出てきそうにないから後で」

「そ、そうだね」くそー。なんて話したらいいのか分からん。

「さっきから何かおかしいですよ。どうしたんですか?」

「なななななんでもないよ」

ことりと湯呑みを置いて、

「まさかとは思いますけど、羊さんとナニカあったとかじゃないですよね?」

「ないです」きっぱりだ。

「よかった」

言うと、湯呑みを両手で持ってゆっくりと口につけた。伏した目には長めなまつげ、光を柔らかく浴びて目の下に影を落としている。

ひとつも確認せず私が言った一言を真実と受けとめ、それ以上何も言わなかった。

「あのさ」

「はい」

「私も、聞いていい?」

「どうぞ」

湯呑みをもう一度置き、私をじっと見た。

感情を読み取ろうとしたけど、できない。

なんか、なんだかよく分からなかった。