帰ってきたライオン


「なんで許可なく撤収したのー! こたつー!」

「おまえマジ、鬼、悪魔、人でなしだな」

「そもそもさー、まだまだこれから寒くなるんじゃないのー? 話と違うじゃんねー」

「おまえマジ、鬼、悪魔、人でなしだな」

「梅雨が終わったら片付けるって話でまとまってたじゃん。梅雨なんてまだまだいるじゃん、どっかり居座ってんじゃーん!」

「おまえマジ、鬼、悪魔、人でなしだな」

「ははははは。二人ともそんな大袈裟な。こたつ布団だってもうよれよれで早くその任務から解かれたいって訴えてましたよ」

交互に指差して松田氏を責める私たちに半ばあきれ、台所で料理をしていた手を止め、火を弱くして、エプロンで手を拭きながら居間へと入ってきた。

仁王立ちな私たちの間には、布団という分厚い羽根をもぎ取られたこたつテーブルが恥ずかしそうにこぢんまりと四つ足で立っていた。

息を切らし、

「布団どこ?」とりあえず聞いてみる。

「もちろん、クリーニングに出しました」

「ってことはさー、ってことはさー、ってことはさー、この近くに、このうちにはもうないってことじゃんね。無いんでしょ? 無いんでしょ?」

「おまえマジ、鬼、悪魔、人でなしだな」

「はあ、まあ、鬼と悪魔と人でなしは別としても、こたつ布団は今頃は水浸しでしょうかね。ふふふ」

悪い男がいる。ここにものすんごく悪い顔した男がいます。

一瞬、気が遠退くのを感じ、足元がふらついた。

のらりくらりと話す松田氏は台所の様子を気にしている風だ。

こたつ布団はきっと今頃はクリーニング屋さんの大きな洗濯機で洗剤でアワアワになりながら回されているんだろうと思うと不憫で仕方なくなった。

しばらく一緒にいたため、こたつに入れば自然と布団が体の形に巻き付いてきて一番暖かいポジションに布団が収まっていた。

それがだ、新品同様になって帰ってきたら、美容院でガラリとイメチェンしてきたてのOLのお姉ちゃんと変わらぬしゃなりっぷりで、

『あら、あなたどなたでしたかしら?』

なぞ言われそうで、距離おかれそうで、今まで育んだ関係がもろく壊れそうで……

「こたつ布団、かなり汚れてますねと言われましたよ」

いらない一言を残し、松田氏は料理の続行に台所へ戻り、私と羊君はややしばらくこたつテーブルを睨んでいた。

心なしかこたつテーブルが『えへっ』と照れ笑いしたような錯覚を感じ、なんともいえないくすぶる気持ちとなった。