結局夜中を回った頃までたらたらと飲み、松田氏のこしらえたお酒に合うつまみ、
イカの塩辛生姜焼き、ボイルウィンナー、水菜と豆腐とアボカドの胡麻サラダ、生野菜スティックwith松田氏お手製味噌だれ、練り梅たちをつっつきつつ映画からニュース、テレビのハードディスクに入っている録りためておいたお笑いをだらーっと見た。
そのうち天気予報通りに外が雨音で騒がしくなり、窓に打ち付ける風音も耳に触るものとなってきた。
時おり、ビュウっと唸る風が部屋全体を揺らし、私たちはその都度びくっとする。
松田氏はいざという時のための【避難バッグ】なるものを用意してあり、その中には三人分の避難用具が詰め込まれている。
羊君が居座るようになってから一人分買い足して補充したそうだ。
初めてそれを聞いたとき、この人は本当に優しい人なんだと感じたものだ。
そして今、この強風と雨でいつこのアパートが飛ばされるか分からない状態。
このおんぼろアパートはそんなに激しい雨風に耐えられる構造をしているとは到底思えない。
吹けば飛びそうな紙対応だ。
それを察してか松田氏は自分の元に避難バッグを準備し、楽に動ける着替えも用意し、ついでに私の分も用意してくれた。
これでいつでも逃げられますね。
と、安心した顔になり、こたつに戻り肩まで入ってテレビに顔を向けた。
「ね、まだまだこたつ必用でしょ?」
「……梅雨が終わったら片付けますよ」
「暑くなったらもういらないしー」
「そうですね、梅雨が終わったらしまいましょう」
丑三つ時も回ると雨はいっそう強く打ち付け、外で大勢の人がうちに向かって大量のあずきを投げつけているんじゃないかと思うほどに壮大な雨風のシンフォニーとなった。
マエストロがいれば成り立つんじゃないかというほどの激動の雨。
ひたすらに窓ガラスを突き破って入ってきませんようにと遮光カーテンをぴっちり閉め、遮熱カーテンでカバーするように窓ガラスを守った。
「ねえ、やっぱり古い家って怖いよねこういうとき」
「風情があっていいと思いますよ。雨で潰れた家って聞いたことないですから大丈夫じゃないでしょうか」
それなら大丈夫かとホッとする私にみかんの籠をずいと寄せて松田氏は微笑んだ。
直後、素晴らしい雷音が轟き、どこか近場に落ちたような音がした。
私達二人は顔を見合せ言葉を飲み込んだ。
オーケストラ、ボレロのの最後のシンバルの迫力の余韻が部屋の中に響き渡っていた。

