「はい、虎牙です。えぇ…あー、それはそれは…」

苦笑いをして俺を見る。

……嫌な予感がする。

「伝えた後、こちらから折り返し致しますので。えぇ、えぇ、少々お待ちを」

電話を切り、ニッコリ笑って一言。

「フィール様がお見えですよ」

「よし、逃げるぞ」

俺は即座に立ち上がる。

「せっかくフィールが来てるんだから会えばいいのに」

「無理だ!一刻の猶予もない、急いで逃げるぞ!さもなくばアイツは……」

「月希様!私が会いに来て差し上げましたわよ!」

「……押しかけてくるんだよ…」

頭を抱え、椅子に座り直す。

予想通りだ、悪い予感はしていた。

こんなに早く押しかけてくるとは……。

開け放たれたドアから息を切らした女の社員が飛び込んできた。

「社長、虎牙さん、申し訳ありません!!お止めしたのですが目を離した隙に…」

「いや……いい、仕方がない……」

「大丈夫ですよ、麻生さん。フィール様が押しかけてくるのはいつものことなので。どうぞお仕事に戻って下さい」

「何よ、私がおじゃま虫みたいじゃないの!」

ぷくーっと頬を膨らませるフィール。

いや、邪魔だから言っている…。

俺はどうしてもフィールが苦手なようだ。

「フィール、お前はもう少し令嬢であるという自覚をな…」

「月希様に会うためにここに来たのよ?お礼ぐらい言いなさいよ!」