「先輩っ……周り、人、いるから離れて」


「嫌だ!離さない!離したらまた君はどこかに行ってしまう!」


泣きじゃくる赤嶺先輩は、まるで小さな子供のようにイヤイヤと首を横に振り駄々をこねる。


文化祭の件で一度、僕は彼女に歩み寄ったのに自分から遠ざかったから、きっとそれも赤嶺先輩の駄々に繋がっているのだろう。


「もう離さない……君が私に伸ばした手を、私は!」


「はい。僕は臆病だから、離さないで下さい」


周りの目なんかもう気にならない。僕は、この強く抱きつく細い彼女の傍で、彼女の言う幸せを感じてみたい。素直にそう思える。


彼女のさらさらと風になびく黒い髪の毛を撫でれば、優しい香りが漂った。


僕の中の化け物が彼女を喰らいたくて僕を蝕んでいるのが分かるけど、今ここにいる僕は、赤嶺先輩の体を抱きしめたい。この温もりに縋りたいと心から思っている。


だから、邪魔をするな。僕の中の化け物。