【完】ヴァンパイア、かなし

僕の困惑等余所に、グラウンドで五段やぐらを作り始めた応援団を見つめ、大人の微笑みを絶やさないありさ先生。


「誰からも好かれる、か。そんなこと無いわよ。今一番好かれたい人には拒絶されてるもの、赤嶺さん。それでも彼女は一生懸命よ」


「……え?」


ありさ先生の言葉はいつもすぐには理解出来ない。彼女は結論を最後まで述べない。日本人らしい喋り方。


「赤嶺さん、初めて貴方の歌をここで聴いてから、毎日私の所に来るの。貴方の好きなもの、好きな音楽、良い所も悪い所も毎日私に聞きに来る」


どうして赤嶺先輩は僕なんかの為にそうやって時間を使うのだろう。彼女は暇な人では無い筈。現に、ああやって高い所に立っていなくてはならないのに。


「これ、本当は赤嶺さんに口止めされてるから聞いたの秘密ね。秘密ついでにもう一つ。……彼女、前から紫倉君の事知ってたみたい。中庭で、いつも一人で本を読んでる綺麗な一年生だって思ってたんだって」 


「そうか、だから一昨年の昼休み、あまり人の通らないあの中庭に先輩は一人で来たんだ」


僕がいるのを知っていたから、僕に会いに。僕が誰かと群れるのが苦手だと分かってて、きっと満島先輩にも黙って一人で。


「なんだかまるで、紫倉君に恋をしてるみたい。……あの子からは甘美な香りがするわ」


不安定に高くなるやぐらのてっぺんにバランスを見ながら慎重且つ迅速に登る赤嶺先輩を見るありさ先生は、見たことの無い表情をしていた。


まるで、何かうっとりしているような、そんな溶けそうな顔。