【完】ヴァンパイア、かなし

「ありさ先生も、吸血したのですか?初めて愛した人を」


「したわよ。だからこうして生きている。……とても、甘美だった。血液パックが不味いと感じるほどに極上だった。恋をした人間の血はね」


ごく当たり前のように答えたありさ先生の笑顔は、なんだか狂気に満ちている。


そう、この可愛らしい普通の女性のありさ先生だって僕と同じ、化け物なのだ。


「パックと違ってね、人間から吸血する血はクセになるような味なのよ。特に、恋の調味料を帯びた血は、とても円やかで甘くて……」


「もう、良いです!……良い、ですから」


聞きたくない。聞いていると、僕は赤嶺先輩のあの柔らかな頬の感触を思い出す。あの白い、純真無垢な肌から吸血した血の味を想像してしまうから。


「ごめんなさい。紫倉君は抵抗があるのよね。お喋りが過ぎたわ」


微笑みを絶やすことのないありさ先生は、緩く内巻きになった黒髪を耳にかけた。


赤嶺先輩のよりずっと女性らしいその首筋と香りを嗅いでも、僕はありさ先生へ吸血したい衝動には、駆られる事は無い。