胸が詰まる。息も、辛い。


赤嶺先輩といたあのたった数分間で、僕の体力は限界まで消耗されていたようだ。


呼吸を鼻でする事が出来ず口ですれば、ひゅうひゅうと喉が嫌に耳に付くような音で鳴り、赤嶺先輩から離れたという事実で気が緩むと、体から大量の汗が流れた。


おまけに、汗とは反比例で体に寒気が走り、まるで、出血多量のような、酷い貧血の更に上のような、そんな感覚が体を駆け巡る。


僕は、僕の中にどんな化け物を飼っているのだろう。


怖い。体の奥底から、血が足りないと叫んでいるその得体の知れない化け物が、怖い、怖い怖いコワイコワイコワイ……!


もう、歩く気力さえ失ってしまった僕は、そこに他の人間がいるとか、次は苦手な現代文の授業だから聞かなくては、とか、そんな考えが体に伝達される前に、冷たい廊下へと体を落とした。


遠くで、何だか沢山の人間達の声がざわざわと聞こえる。それは、とても嫌なノイズで、不協和音。


いっそのこと、僕が本物の化け物だったら、この場の全員の血を吸血して、それが済んだら蝙蝠みたいな真っ黒な翼を生やして、誰も知らないところへと逃げることが出来たのだろうか。


だけど、それは出来ない。普通の人間と違って摂血しないと生きていけない体だけど、人生に一度、初めて愛した人を殺さないと生き長らえる事も出来ないような化け物だけど、僕の脳は、心は、少し臆病な、ちっぽけな人間なのだから。