そう思っていると何というタイミングの良さなのだろうか、昼休みの終わりを告げる予鈴が鳴り始めた。


「ああ、僕、行かなくちゃ。……先輩、話しづらい事だったでしょうに、聞かせて下さってありがとうございました」


「あ、ああ。……エルザ、また、後でな?」


きっと、立ち去る僕に疑問系で声をかけたのは、僕が思っていることがピリピリと空気を伝い、赤嶺先輩に少し触れたがらだろう。


取って付けたような笑顔を作り、先輩の方を一度振り返り、何を告げるでも無く、僕はその場を立ち去る。


教室に戻ったら、無理矢理教えられた満島先輩の連絡先に、文化祭のことを改めて断る旨を伝えなければならない。


赤嶺先輩や満島先輩の、ひだまりみたいな温かい空間に僕はいてはダメなのだから。今までの日陰に戻らなければ、僕はいつかその太陽に、物語のヴァンパイアのように焦がされて死んでしまうだろう。


誰かを愛おしいと想う前に、近づき過ぎてしまう前に、僕は逃げよう。


僕は、孤独でも、それが暗くてじめじめした日陰でも、人間として、生きて行きたい。