「やっぱり、私は君じゃなきゃダメだ!」


しかし、その音符の世界に赤嶺先輩の、応援団長だった張りのある、少年のような大きな声が混ざり、現実に引き戻される。


振り返ると、彼女はまだその美しい涙を流したまま、だけど、さっきとは違い凛とした表情で僕を見ていた。


「君で良いんじゃなくて、君が良いんだ!君の代わりなんかいないんだよ、エルザ君!」


美しい涙が零れるその大きな瞳は、僕だけしか見えていないように、真っ直ぐにこちらを向いていて。


また、心臓がざわざわと騒ぎ出す。この騒ぎを沈める方法を、僕はいくら探しても見つけることは出来ない。


「……ふふ!良いじゃない紫倉君!女の子がこんなに一生懸命に、貴方にプロポーズするみたいなこと言ってお願いしてるのよ?一回くらい目立ったって悪いことじゃないわよ?」


その様子を見ていたありさ先生は、心底楽しそうに、鳥が鳴くような声で笑っていた。


赤嶺先輩に、ありさ先生。僕の小さな世界のピラミッドの最上層に位置する女性に視線を向けられ、感覚が麻痺する。