そして不覚にも、僕は彼女の瞳から零れる涙が美しい、と思っていた。


その清らかな涙が、僕の脳内にメロディーを刻み込み、みるみると溢れ出る。


「赤嶺先輩、すみません。ちょっと自分で涙拭って!」


「へっ……?」


僕はまだ止まらない大粒の涙を零す赤嶺先輩にハンカチを押し付けて、書くものが黒板しかないのを確認し、譜面を黒板と白いチョークで描き始めた。


「彼、凄いでしょう?埋もれているのが勿体ないくらいに」


「はい。何語なのかも分からない歌に感動するなんて、生まれて初めてです。やっぱり、私は間違ってなかった」


赤嶺先輩とありさ先生が何かを話しているのが遠くに聞こえるくらい、僕の目には、耳には、踊り狂う音符しか入ってこない。


赤嶺先輩の、彼女の涙は、それ程美しかったのだ。