多分、そんな中でもエルザは、和真が悲しまないように記憶が消えて欲しいと思っただろう。願った、だろう。


だから、和真からエルザの記憶を消す特別プログラムを直接脳に流す時、俺にも躊躇いは無かったと思うんだ。


これから何をされるのか不安そうな和真のこめかみに電磁波を流す線の先っぽのパットが貼られるのを眺め、俺が、それを執行するエンターキーを押した。


和真の叫び声が骨折した腕にじりじりと痛みをもたらしたよ。お前の記憶が無くなって行く声が。


治った今でも、左腕がそれを憶えてて、じりじり痛む事がある。


和真は記憶を失い、意識が暗転するその時まで、ずっとお前の名を泣きながら叫んでいた。


そうして、家族と同等の存在の和真から、和真の愛する記憶を、俺の知らない愛の記憶までもを俺が殺した。


他の、エルザと和真を知らない奴じゃなく、一番近くで見守った俺がそれを実行したのは、苦しくも、良かった事だと勝手に思っているよ。


エルザ、これで良かったんだよな?お前は、これで良かったん、だよな?


でも、いくらそれを訊こうとも、答えは返ってこない。耳に届くのは、エルザに良く似た柔らかな風の吹く音だけ。