この衝動は一体何なんだ。こんなの異常だ。


ぐっと閉じた口の奥で空気を飲み込んで、教室の入り口で動けないでいる僕に、赤嶺先輩がふわりと微笑んだ。


笑うと、凛としていて近付き難い雰囲気から一転、親しみやすい顔になるんだ。


ほうっとそう考えていると、赤嶺先輩は伸びた背筋のままで僕のところへ歩いてきた。


「昨日はすまないことをしたな。怪我は大丈夫だったか?紫倉・ブルーム・エルザ君」


「いえ……あの、本当に大したことは無いので。そんなことの為にわざわざ一年生の教室にいらっしゃらなくても……」


どこで僕の名前とクラスを調べて来たのだろうか。僕みたいな地味な生徒のことを探してみせるなんて、ピラミッドの最上層の住人は情報網が凄い。


最下層の住人の僕と、最上層の住人の赤嶺先輩、それから、赤嶺先輩の後ろにいつの間にか来ていた満島先輩。


この不吊り合い過ぎる組み合わせに、クラスメイト達と廊下の生徒達の視線が集まる。


嫌だ。僕は目立たず生きていきたいのに。